「天草のさりー」とは? 熊本県天草市の地域を守るデジタル通貨

画像引用:天草のさりー案内所
熊本県天草市が導入したデジタル地域通貨「天草のさりー」は、地元産品やサービスの利用を促し、地域経済を活性化させる取り組みとして注目されています。
本記事では、「天草のさりー」の仕組みや使い方、導入による効果、そして今後の展望についてご紹介します。
お話を聞いた方
原田 勇介
1998年に本渡市役所(現:天草市)に入庁。税・環境・農業部門を経て2021年に現在の産業振興業務に従事し、デジタル地域通貨「天草のさりー」の導入から携わっている。
Content目次
天草市の地域通貨「天草のさりー」とは?
天草市が導入した「天草のさりー」は、スマートフォンのアプリやマイナンバーカードを使って、キャッシュレスで支払いができるデジタル地域通貨です。
単なる決済手段にとどまらず、市民の暮らしや地域コミュニティに多角的に貢献する、新しい地域通貨の形を提案しています。
その始まりは2014年、地元事業者による住宅リフォームの施工費の2割を紙の商品券で交付する助成事業でした。
この取り組みが、産品だけでなくサービスの地産地消と域内経済の循環を促進し、2022年3月、新型コロナウイルス対策、業務効率化、事務費削減などを目的に、現在のデジタル版「天草のさりー」へと進化を遂げたのです。

画像引用:天草のさりー公式ホームページ
「天草のさりー」の仕組みと使い方
「天草のさりー」はスマートフォンアプリとマイナンバーカードという2つの形態があり、それぞれ特徴が異なります。

画像引用:天草のさりー公式ホームページ
種類と利用方法
- スマートフォンアプリ版:
お店が提示するQRコードを自身のスマートフォンで読み取り、金額を入力して支払います。
生体認証などで不正利用を防止しており、2025年3月末時点で950店舗で利用可能です。 - マイナンバーカード版:
お店に設置された決済端末にマイナンバーカードをかざし、利用者証明用電子証明書の暗証番号(4桁)を入力して決済します。
こちらは2025年3月末時点で339店舗に対応しており、スマートフォンの操作が苦手な方でも利用しやすいのが特徴です。

画像引用:デジタル地域通貨『天草のさりー』
ポイントの貯め方とチャージ方法
「天草のさりー」の残高を増やす方法は、市の事業でポイントとして受け取る方法と、現金でチャージする方法の2通りあります。
【ポイントが貯まる市の事業例】
- 住宅リフォーム助成事業
- 健康ポイント事業
- 介護ボランティア事業
- まちづくり参画促進事業
- 入学や新成人時の祝金 など
これら合計11種類の事業を通じて、年間約3億円もの「のさりー」が市民に交付されています。
一方、現金でのチャージは市内21箇所の店舗や道の駅、公共施設に設置されたチャージ機で行えます。
この現金チャージは、市民だけでなく市外の方も利用できるため、観光客などが天草を訪れた際に活用することも可能です。
ふるさと納税の返礼品としても活用
2024年3月からは、ふるさと納税の返礼品として、飲食・宿泊・体験サービスなどで利用できる「天草市満喫クーポン」の提供も開始しました。
これにより、観光客や訪問者に天草を訪れるきっかけを生み出しています。
実際にクーポン利用のために来訪し、さらにお得だからと現金で追加チャージをしていく観光客の事例も報告されており、関係人口創出への貢献が期待されています。
「天草のさりー」の導入効果
「天草のさりー」は天草市にもたらした経済効果と社会効果、そしてリアルな利用状況データをまとめました。
地域経済への波及効果
天草市では、補助金などを現金ではなく地域通貨で交付することで、お金が市外に流れにくくなり、市内経済への波及効果は現金の約2.5倍にのぼります。
加盟店へのアンケートでは、売上が増加したと答えた店舗は13%で、その増加幅は平均8%、最大で20%に達しました。
さらに、プレミアムチャージや入学祝金などの交付時期には、顧客単価の上昇も確認されており、地域内の消費活性化に大きく貢献しています。
利用状況データ(2024年度・年間)
- 利用者数:13,276人
- 取引件数:184,515件
- 取引金額:613,381,802円
【業種別内訳】
大型ショッピングセンターが27%と最も多く、次いでドラッグストアが20%を占めていますが、飲食店、建設業、宿泊・観光業など、幅広い業種で利用されていることがわかります。
社会効果と市民の声
「天草のさりー」は、経済だけでなく、地域コミュニティの維持にも貢献しています。
地域行事や奉仕活動への参加の報奨として交付することで、参加意欲を向上させているのです。
市民アンケートでも「地域活性化に貢献する取り組みだ」と高い評価を得ています。
また、高齢者からは「のさりーをキッカケにスマホを積極的に使うようになり、今ではSNSも楽しめるようになった」という感謝の声も届いています。
デジタル化への橋渡し役として、市民の暮らしを豊かにする一面も持っているのです。
利用者属性(年代別)
- 10代未満:189人
- 10代:391人
- 20代:2,572人
- 30代:3,881人
- 40代:5,357人
- 50代:5,555人
- 60代:5,994人
- 70代:3,948人
- 80代:984人
- 90歳以上:136人

画像引用:天草のさりー公式ホームページ
課題と今後の展望
多くのメリットを生み出している「天草のさりー」ですが、さらなる普及と利便性向上に向けた課題もあります。
運営上の課題と対策
最大の課題は、人的リソースの不足です。
これまでの兼務職員1名と会計年度職員1名という体制では、積極的な推進活動や説明会開催まで手が回らないのが実情でした。
対策として、2025年度からは兼務職員を1名増員し、商工3団体にも事業者対応の強化を要請しています。
また、デジタルデバイド対策として、プレミアムチャージ時には専用サポート窓口を設置したり、高齢者の集まりへ出向いて説明会を実施したりしてきました。
今後は高齢者支援の部署や包括支援センターと連携し、サポート体制をさらに充実させていく計画です。
利用者・加盟店からの声
利用者と加盟店の双方から、さらなる改善への期待が寄せられています。
- 利用者からの主な要望
- 加盟店のさらなる増加
- マイナンバーカードの利便性向上(暗証番号入力が煩わしい)
- 大手決済サービスのような、金額入力不要のシステム導入
- 恒常的なプレミアムチャージの実施
- 加盟店からの主な要望
- 有効活用のための研修会開催
- マイナンバーカード決済時の通信環境整備の負担
これらの声に応え、より使いやすく、より多くの人が参加したくなる仕組みづくりが求められています。

画像引用:デジタル地域通貨『天草のさりー』
今後の展開と将来性
天草市では「天草のさりー」を単なる決済ツールで終わらせず、地域の情報発信拠点へと進化させることを目指しています。
【今後の主な計画】
- 情報発信機能の強化:加盟店がタイムセールやイベント情報を自由に発信できる機能を拡充し、利用者が毎日アプリを開きたくなるような仕組みの構築を目指します。
- 利用機会の拡大:ギフト用のチャージカードを販売し、プレゼントなどの需要を喚起します。
- 加盟店独自の特典を促進:加盟店が「のさりー」利用者向けの独自特典を企画・実施することを支援。これにより、事業者の経営力向上も狙います。
- 関係人口の創出:高校生や新成人が市を離れる前につながりを作り、ふるさと納税者との関係を維持することで、UIJターンや移住にもつなげていきたいと考えています。
将来的には、大手レジシステムとの連携によるタッチ決済の実現も視野に入れています。
高齢者から寄せられた「のさりーでやっと時代に追いつけた」という声に象徴されるように、老若男女が一丸となって地域経済を活性化させるツールとして、「天草のさりー」はこれからも進化を続けていくでしょう。
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