厚木市が推進するSDGsと地域活性化をつなぐデジタル地域通貨「アユモ」

神奈川県厚木市では、SDGs(持続可能な開発目標)の推進と地域経済の活性化を目指し、スマートフォンアプリを活用したデジタル地域通貨「まちのコイン」を導入しています。
その名も「アユモ」。このユニークな地域通貨は、市民や市外からの訪問者が楽しみながらSDGsに取り組むきっかけを提供し、地域内の交流を深める役割を担っています。
【厚木市ホームページ】
https://www.city.atsugi.kanagawa.jp/sdgs/ayumo/index.html
【まちのコイン「アユモ」ホームページ】
https://coin.machino.co/regions/atsugi
お話を聞いた方
岩坂 駿
2024年に厚木市役所に入庁し、企画政策課に配属。その後「つながりポイント事業まちのコイン(アユモ)」や「あつぎSDGs推進事業」「あつぎSDGsフェスティバル」など多くの事業を担当。現在では、あつぎSDGs推進事業の他、地方創生の推進、大学連携等にも従事。
Content目次
「アユモ」誕生の背景と目的

「アユモ」は、神奈川県が進める「SDGsつながりポイント事業」の一環として、2021年3月に厚木市で事業化されました。
その主な目的は、SDGsの推進です。日常生活の中でSDGsに関連する行動を促し、それを「アユモ」という形で可視化することで、市民一人ひとりがSDGsを「自分ごと」として捉え、継続的な行動へとつなげることを目指しています。
また、地域内の店舗や団体(スポット)と連携することで、地域経済の活性化や地域コミュニティの強化にも貢献しています。
「アユモ」の仕組みと使い方
「アユモ」は、特定の店舗や団体である「スポット」が設定したSDGsにつながる「体験(活動)」に参加することで獲得したり、利用したりできる地域通貨です。円への換金はできず、アプリ内でのみ利用できます。
アユモをもらう体験

画像引用:「まちのコイン:厚木」公式サイト
ユーザーは、スポットが設定したさまざまな取り組みに参加することで「アユモ」を獲得できます。例えば、エコバッグを持参したり、まちの清掃活動に参加したり、農作業を手伝ったりといったSDGsに関連する行動がコイン獲得の対象となります。

画像引用:「まちのコイン:厚木」公式サイト
雨の日の来店やお店のSNSでの宣伝なども、スポットによってはコイン付与の対象になる場合があります。新規ユーザーには、登録時に500アユモが付与される特典もあります。
アユモを使う体験

画像引用:「まちのコイン:厚木」公式サイト
貯まった「アユモ」は、加盟スポットでさまざまなサービスや体験と交換できます。
例えば、ドリンクのサイズアップやトッピングサービス、地域ならではの特別な体験など、スポットごとに趣向を凝らした「あげる体験」が用意されています。
獲得したスポット以外でも利用できるため、地域内での回遊性を高める効果も期待できます。
その他の機能
「アユモ」アプリには、SDGsの実践をさらに楽しく、継続的にするためのさまざまな機能が搭載されています。

画像引用:厚木市「あつぎSDGsポータルサイト」
- チェックイン機能: スポットに設置されたQRコードを読み込むだけで、一律50アユモを獲得できます。位置情報と連動しており、その場に行かないと体験できないようになっています。
- スタンプラリー: 指定されたスポットを巡るスタンプラリーが多数開催されています。達成すると大量のアユモを獲得でき、地域の魅力発見や回遊促進につながっています。
- クイズ機能: 地域に関するクイズに答えることでアユモを獲得できます。隙間時間に手軽に取り組める機能として人気があります。
- 拾うアユモ: アプリ内のマップ上に点在するアユモを拾って獲得する機能です。歩いて移動することを促し、健康増進にも寄与しています。特定の場所では抽選で多くのアユモを獲得できることもあります。
- コインを贈る・お祈り機能: ユーザー間やスポット間でアユモやメッセージを贈り合うことができます。
- まちの抽選会: 貯めたアユモを消費して、豪華景品が当たる抽選会に参加できます。
「アユモ」の利用状況と効果
2024年6月時点で、利用者数は5,000人あまり、加盟スポットは101を数えます。
利用者の属性としては、40代から60代の年齢層が中心で、男女比はほぼ1対1です。利用者の約半数が厚木市外からの訪問者であり、市外からの誘客にも貢献しています。
「アユモ」導入による経済効果としては、SDGsに関連する体験が年間約52,000回行われており、日常的なSDGs行動の可視化につながっています。特に、気候変動対策(目標13)、つくる責任つかう責任(目標12)、パートナーシップ(目標17)に関連する体験が多く利用されています。

画像引用:「まちのコイン:厚木」公式サイト
社会効果としては、SDGs活動報告の募集などを通じて、市民のSDGsへの意識変化がみられています。また、各種イベントでのブース出展など、普及啓発活動も積極的に行われています。
運営体制と課題
「アユモ」の運営主体は厚木市企画政策課であり、システム管理は「面白法人カヤック」に委託しています。

県内の他の「まちのコイン」導入地域とも連携し、情報交換を行っています。

画像引用:「まちのコイン」公式サイト
現状の課題と対策
運営上の課題としては、「あげる体験」の不足と「アユモのインフレ」が挙げられます。「あげる体験」はスポット側の業務負担増につながりやすく、どうしても不足する傾向にあります。
これに対して市としては、積極的に体験を作成したり、アユモ利用を促進しているスポットを周知したりする対策を講じています。
また、「アユモのインフレ」については、体験価値を維持するため、アプリ内での適正価格を呼びかけています。
利用者の声
ユーザーからは「地元の良さを再認識できた」「興味を持つきっかけになった」といった肯定的な声がある一方、「体験できるイベントやお店を増やしてほしい」といった要望も寄せられています。
スポットからは「SDGs活動の印になる」というポジティブな声がある一方で、アユモの周知強化不足を指摘する声や、本業へのメリットをもっと得たいといった要望があります。
今後の展望
厚木市は、「アユモ」をSDGsの普及啓発と行動変容を促すツールとして、今後も積極的に活用していく方針です。
デジタル化が進む社会において、デジタル地域通貨は利便性や行動変容を促す有効なツールであると同時に、地域コミュニティの希薄化といった課題も内包する可能性があります。
厚木市は、単に社会的なニーズに応えるだけでなく、将来のデジタル社会の課題も見据えながら、「アユモ」の運営を通じて人と人とのつながりを大切にする地域づくりを目指しています。
一覧に戻る